「ユキちゃん」

近くで聞こえるオヤジの声。



どう見ても、
わたしと並んで恋人同士に見えることはない中年男。



「ユキちゃん」


もう一度言う。

わたしに向かって嬉しげに。




本当は夢瞳(ユメ)って名前だけど、
わたしが使う偽名とは知らずに男は呼ぶ。



いや。

例え違うって知ってても
大した問題じゃないからね。



この男は数時間の間、わたしを拘束出来ればそれで満足。



報酬にお金と交換であれば、
時間はわたしにとって無駄にならない。



そういう契約をしている。



ていっても、
正式な書類に書いたわけではないよ、勿論。


暗黙の了解?

てヤツ?