きっと辛いのかな?
それともいっそ、
記憶なんて無い方が幸せに生きていけるの?
記憶を無くす前の照を知らないから、
純粋そうな彼を見ていると、
そう思える。
捜索願いも出されていないなんて、
身寄りの人がいない悲惨な状況だったのかも。
もしかしたら、
施設に入所する子供たち全員が、
過酷な過去の思い出を消すことが出来たら……
「…め?
ねぇ、夢瞳?」
「あ。何?」
「どうしたのぼうっとして?」
「…なんでも、無いわ」
照を目の前にしながら、
つい考えを巡らせてしまった。
「夢瞳はこんな時間にどこに行くの?
消灯は過ぎたし、
それに顔も服もすごく大人っぽいよ」
照は明らかに控えめな表現を使った。
きっと『派手だ』
と言いたかったに違いない。
ここでは、
夜遊びどころか、休日であっても平日であっても学校か施設の行事以外での外出には必ず申請が必要だから。
少年たちは強く反発して堂々と規則を破る者が大半で、
職員はそれを止める力もなく、結局放置になってるけど。
少女たちはみんな、
比較的低年齢で、そうでなくても深く心を閉ざしている子が多く、
敢えて破ろうとする者はいない。