勢い余って突っ走りそうになったところを踏み止まって壁に隠れる。
夢瞳さんと恒輝さんが、まだ父さんの部屋の前でいた。
最近いつも隠れてばかりだ…
前に立つふたりは何故か一向に入ろうとしない。
と思ったら、照兄と父さんの声が部屋から聞こえた。
それを聞く夢瞳さんたち。
聞こえてしまった内容に驚く夢瞳さん。
俺はなんだか嫌な予感がして、内心ハラハラしながら見つめる。
「崇佑さん、彼女が好きなんですね?」
「…?!」
突然耳元でしたひそひそ声に、驚いて危うく声をあげそうになった。
よく耐えたな…俺。
「閑流(シズル)さん…」
閑流さんは、ほぼ毎日来てくれているホームクリーナーというか、家事全般と、来客の対応とかを任せている人。
白のブラウスをきっちり着て、黒いパンツを穿く美人さんは家事手伝いというより有能な秘書の様だ。
「ちょっと閑流さん。何してるんですか?」
「崇佑さんこそ」
……確かに。
そんなつもりはなかったけど、盗み聞きをしてるみたいで少し恥ずかしい気持ちになる。
ちょっとしょげていると、照兄が部屋から出てきた。
「なんで恒輝と夢瞳がここに?」
少しの間をおいて、
「わたし、今日はやっぱり帰ります」
夢瞳さんはそう言い残して走り出した。
相変わらず早い足はみるみるうちに姿を消した。
「待って夢瞳!」
とっさに走り出した夢瞳さんを追いかける照兄。
ふたりを見て、なんだかやっぱり嫌な予感がした。
「崇佑さん、追わなくて良いの?」
横からした控えめな閑流さんの声。
「……」
今気付いたことに恐がる俺は、走り出すことをためらった。
「気持ちは、伝えないと伝わらないですよ」
落ち着いた優しいアドバイスをくれる彼女は、そういって俺の肩を押してくれた。
「ありがとう。閑流さん」
俺はプレゼントを掴む手に力を入れて、ふたりの後を追った。
