施設で育ったということは、想像以上の苦労を味わってきたのだろう。
身内がいないか、もしくはいるのに一緒に暮らせない問題がある。
俺は母さんが死んだ時、これ以上苦しいことなんてないと思った。
でも、きっとそれは甘えた考えで、夢瞳さんはそれ以上に辛い思いをして育ってきたのだろう。
施設とはそういう場所だ。
そして、ここはあまり良い噂を聞かない。
問題が絶えないし、悪そうな奴らもいっぱいいる。
だから急激に心配になってきたんだ。
でも、この施設は父さんの会社が多額の寄付をしている施設。
情報を得るには好都合だった。
御木本の名前を出せば、警戒も怪しみもされずに、夢瞳さんのことを聞くことが出来た。
名前は、吉井 夢瞳さん。
幼い頃に母親を亡くし、さらに10歳の時に父親を亡くして、他に身内がなく、施設に入った。
やっぱり、両親を亡くしていたんだ。
しかも、同い年か年上かと思った彼女は中学生だった。
近くの市立中学に通う3年生。
ごめん。夢瞳さん。
こんな卑劣な形で夢瞳さんのこと調べてしまって。
けど俺、一瞬で恋に落ちたんだ。
どうしても知りたかった、夢瞳さんのこと。
馬鹿みたいと思うかもしれないけど、
彼女を助けたかった。
この危険な檻から…
気付くと、俺はまるでお姫様を助けに行く騎士が、王様にお目通りをする気分で、父さんに頼んでいた。
『なんとか夢瞳さんを助けられないかな?』
