『何してんの。ほら立って』
彼女の言葉さえ聞こえない程、心臓は爆音で響く。
手を引かれるままに、大きな丸い時計が見えるベンチに座らされていた。
タオルで冷やしてくれる間、その目をまっすぐ見れない様な気分で、でもしっかり見つめた。
『この辺りに住んでるの?』
勝手に口をついて出た質問。
なんだろう俺。
ナンパ男みたいじゃん。
『まぁね』
なんて、彼女はそっけなく答える。
でも丁寧に血をぬぐってくれる手がとても優しくて痛いはずなのに心地よく感じたんだ。
『いつもこんな遅くまでバイトなの?』
また質問。
『…まぁね。
だいたい遅いわ』
彼女は『この近くに住んでいて』『いつも』『遅くまで』『バイト』らしい。
この公園もよく知っているみたいだ。
そうこうしているうちに、あっという間と思える時間は終わってしまった。
いつの間にか綺麗に傷の汚れを拭き取ってくれていた。
『あげるわタオル。冷やして。
で、時間無いからわたし帰るから。
せっかく助けたんだから捕まらないでね』
『あ。待って!』
『何?』
『君の名前は?』
『夢瞳よ。
じゃね。急ぐから』
そう言い残して、本当に急いで帰ってしまった。
俺を助けてくれた女の子。
行動力があって、優しく傷を癒してくれた。
意思の強そうな目で、少し低めの落ち着いた声。
そして、とびきり綺麗な髪の毛。
その髪に触れて抱き締めてみたい。
誰がなんと言おうと、一目惚れだった。
