彼は『御木本』というお金持ちの息子だった。



記憶喪失?

カウンセリング?



それは、嘘…?



まさか、別人かな?
なんて疑問さえ浮かぶ。

そんな考え、明らかに現実逃避だって分かってるのに…




施設の職員から明らかに贔屓されていたのは、
多額の寄付金をしてくれている男の息子だから。

ここに入り込めたのも、きっと同じ理由。


毎日の病院通いは、
きっと、行く振りをして学校に通っていたんだろう。
大和や碧たちと同じ高校に行くわけにはいかないから。


わたしとの毎日の約束の後、何かを思い出すためにたまに散歩に出掛けていたのは、
きっと家に帰っていたか、
崇佑か誰かに会っていた。


そして、ずっと戻らなかった記憶。

戻るはずなんてないよね。

初めから、記憶喪失じゃないもの。






わたしは照のことしかしか考えれなかった。



母の家族のことなんて、
崇佑の想いなんて、
後見人に立候補した真相なんて、



今はどうだって良かった。




あなたはわたしを騙していたの?

毎日一緒に居たことも全部、嘘なの?


約束を、したじゃない。

お互いの、願い事を叶えるなんていう、ちょっと変な約束。