券売機でチケットを買い、観覧車に乗り込もうとすると

「記念撮影します。観覧車ご乗車のあとにご希望でしたらお買い上げください。3,2,1」


パシャッ


有無を言わさず写真を撮られ、観覧車に乗り込む。


何がなんだかもうわからなかったし、隼人のことを考えるのは疲れるから、慧の勝手な振る舞いに救われたような気がしないでもなかった。


「おねーさん、名前なんていうの」


「みちる」


「チルチルとミチルだ。知ってる?青い鳥。」

慧は微笑んでいる。

「聞いたことはあるけど忘れちゃった。」


「チルチル、ミチルが夢の中で過去や未来に、幸福の青い鳥を探しに行くんだけど、結局それは自分たちに最も手近な鳥かごのなかにあったっていう話。」


そうだ。
幸福は自分たちの何気ない近くにあるものだ。私にとってそれが隼人であるように、隼人もそうだと思っていた。

だけど

隼人の幸福はどこにあるんだろう。
偉くなること?

とりあえず隼人の幸福が私でないことだけはよくわかってしまった。


「おいミチル。外見てみな」


ハッとした。


さっきまで晴れていた夜の景色は


一面の雪景色だ。

「綺麗…」

うるさいネオンの光と、一面に舞う雪。

「スノードームみたいじゃん。おもちゃみてぇ。」

本当だ。

「なんかさぁ、ミチルはマリッジブルーか何かなの?」

突然の慧の質問に答えが見つからない。

「この指輪は婚約指輪じゃないもの」

慧は首を傾げている。

「彼からもらったこの指輪、婚約指輪だと思ったのに違ったの。彼はけっこういい会社に勤めてて、社長の娘と結婚するから私は愛人になるらしいの。学生時代から何年も付き合ってきたのに笑っちゃうよ、ほんと。」

慧は私の左手を取り、指輪を外して言った。

「こんなもの意味持たなくね?」

観覧車がてっぺんを過ぎたころだった。


「あっ…」



生す術もなく




観覧車の窓の隙間から


指輪は


スローモーションで


輝くスノードームの中へ



消えていった。