走って辿り着いた先は一軒のクラブだった。
(club life)というらしい。

「慧サン、待ってました!」

インカムをつけたクラブのスタッフであろう人は慧に頭を下げている。

「この子、VIPに通してあげて」

スタッフはペコペコしている。



慧は私に耳打ちした。

「退屈そうなミチルにいいもの見せてあげる」

私は慧を睨み付けると慧は笑ってフロアの奥へ消えて行き、私は案内されるがままフロアへ向かう。

VIPと呼ばれるシートに通され、ソファに腰掛けるとスタッフは言った。

「ドリンクは何にされます?」

「イエガーボムで」
さっきのバーで慧が頼んでいたお酒。
どんな味か知りたかった。

薄暗い中、大きな音量で流れる音の洪水。
不思議とうるさいと感じなかった。

たくさんの人たちがお酒を飲みながら、音と光に身をまかせて楽しそうにしている。
こんな所に隼人と来た事はなかった。
まだまだ一緒に行きたい場所があるのに。


一緒に生きていくのは隼人とだと思っていた。


大きな音と光の渦の中で思った。
隼人とは同じ道を歩いてはいけないし、一緒に居る限り一番になれない、日のあたる場所を歩けない。
一緒に季節の移ろいを感じたりすることも、素直に自分の気持ちを吐き出すこともない。


目に涙の膜が張ってあふれそうになった瞬間だった。

フロアの熱気が一点に注がれ、空気が変わったのを感じた。


その先にいたのは慧だ。