魔女の瞳Ⅴ

さて。

戸締まりが済んだ所で私は歩き出す。

季節は春。

私が昔々住んでいたヨーロッパでは、まだ雪解けすら始まっていない時期だったけれど、日本というのは住みやすい環境だと、数百年住み続けた今でも思う。

何より。

「……」

小さな公園のほとり。

桃色に染まる大きな木を見上げる。

この桜というのがまた風情があっていい。

暖かくなってきた風に舞う淡いピンクの雪。

その一枚が制服の肩にヒラリと落ちてきても、払い落とす気分にはならない。

むしろちょっとした贈り物を貰った気分。

そのまま、弾むように歩く。

…日陰ばかりを歩いてきた暗闇の女が、花を愛でて風情を語る、か。

思わず苦笑いする。

よくもまぁ、ここまで変われたものだ。

雪解けが始まっているのは私も同様らしい。