六人の王が統べる世界テクスタでは、お互いを一切干渉せず、争いが起きることはない。ある種の共存をたもっている。
だが、己の国から一歩でも外に出ると、その者に与えられるのが生ではない事は確かだ。
その為、テクスタに旅人は少なく、ましてや、腰に剣を挿している彼は異質で異様に目立っていた。
短く切られた明るい茶色の髪、真っ直ぐ前を見つめる深く青い瞳。
精悍な顔立ちは都で話題の芸人一座の看板役者のようだ。
その異質さを除いても、視線を集めるに充分な魅力を彼は持っていた。
「おい」
視線の中心にいた彼に声をかけられた男は慌てて返事をする。
耳にすんなりと入るその低い声に若い娘は黄色い声をあげた。
「な、なんだい?兄ちゃん」
「アメルの卵を知らないか?」
「………アメル?知らねぇなぁ」
「………そうか」
彼の落胆した表情に男は言葉を付け足す。
「卵のことなら、養鶏所の婆さんに聞いてみるといい、あの人は長生きしてるし何か知ってるかも知れねぇ」
「…………ありがとう」
親切に好感を持った彼は薄く笑みを浮かべ礼を言った。
踵を返し去っていく彼の背に養鶏所の場所を告げると、彼は振り返り大きく手を振る。
その背中を押すように大気は大きく動いた。