「此処のが人が多い。さすがに昼間っから、繁華街なんかで仕掛けて来たら、えらいことになるって事くらい、向こうだって解ってるはずだから、撒けるかもしんない。けど、もしもってのが有るから、取り敢えず状況を見て、撒けなかったら人気の無い、広い場所に移動するよ。良いかな」

「はい」

「なんならそこで、こちらから仕掛ける、ってのも有りだから。まぁ、先手必勝って訳だな」


目的を告げるだけの会話に、二人は駅を出る。

目的の駅は、まだ大分先にある。

広尾で降りて、舞の自宅近くでやり合う事も考えたが、逸れよりも比較的人の多い所を行く方が、撒く事も可能かも知れないと、決断した上の行動だったが、この判断が、吉と出るか、凶と出るか。

仁は、速くなりすぎないよう、舞を気遣いながら先を急ぎ始めた。








女は仁達と、絶妙な距離を測って後を着けていた。

舞の後ろ姿を見て、ギリギリと唇を噛む。

余りの悔しさに、美しい顔が醜く歪んでいる事に、気付けないのは、彼女だけだ。

彼女の歪む顔を見て、人々がギョッとし、顔を背ける。

まるで、見ては行けない物を、見たかの様に。

人では無い魔物を本能的に知る彼等は、女を避けて歩き行く。

災難が、降り懸からない様にと。

不必要だと、回りが感じる程に、睨みつける女の視線の先を、擦れ違う人々が、好奇な目で盗み見る。

可愛らしい所作で話す少女に、答える若い男。

美男と美少女カップルに、二人を見留た人々は、憐れみの表情で去って行った。





『許せない……許せない。私からあの人を奪ったあの女……』


ともすれば、見失いそうな二人を、女は執念深く追跡する。

恨みが彼女を変えたのか。

彼女に宿るは純愛か、はたまたただの情欲か。

今にも襲い掛からんとする心の焦り。

それが彼女を苛み、最悪の状況を形作る。


女は、何度も見失いそうな状況を、執念で回避し続けたのだ。



異常なまでの執着には、脱帽するが、凝り固まった思いは、多大なる隙を生む結果となったのだ。



争いが始まる。