「なー。舞ちゃん。わりぃんだけど、次の駅で降りよう」

「えっ? 仁さん?」


不思議そうに聞き返す舞に、仁は高い体躯をくの字に曲げて、舞の耳元で囁いた。


「やっぱ、つけられてるわ。俺達」

「えっ!?」

「しっ……」


仁がこそっと、回りに知られない様に、唇に人差し指を立てる。

舞も、こくりとうなづくと、何事も無かった様にふるまった。


「いや〜。マジ襲う気かな? 実は、半分無いと思ってたんだよね〜」


軽い口調は、余裕の表れか。

仁は、舞の手を掴むと直後に開いた扉の外へ、舞を連れて踊り出た。

他の乗客も銘々好きずきに降りて行く。

その中に、例の女も混じっていたが、仁や舞には女の事が解らない。

電車に沿って出口へと歩いていた二人が、発車のベルを聞いて、扉が閉まるギリギリで、再び電車に飛び乗った。

それに女が反応して、慌てて同じ様に飛び乗った。

その行動が、仇になるとも知らずに。

一人の女が、自分達と同じ様に、電車を乗り降りした。

そして、その行動の一部始終を仁は見ていたのだ。


「な〜る〜。あの女か……。おーおー。殺気ぷんぷんさせちゃって、バレバレだっちゅーの」


『はぁ……。』と、溜め息を付いて、肩を落とす仁に舞が、「大丈夫ですか?」と気遣う。


「あ? あ〜、大丈夫、大丈夫。取り敢えず行くよ。撒きたいとこなんだが、そうも言ってらんね〜だろうしな……」


人の流れを、舞の手を引いて巧みに縫って歩く仁は、端から見てもしなやかな獣そのもの。

津那魅が静なら、仁は動。

そんな考えが過ぎる舞に、仁がそっと耳元で囁く。


「舞ちゃんの事は必ず守るから」

「はい。宜しくお願いします」


至って真面目な仁の声音に、舞が笑顔で答える。
疑う事を知らない様な少女の笑顔に、仁の心臓が『ドクン』と脈打つ。


『何なんだよ、俺は……舞ちゃんの笑顔に……』


まだ、相手は子供だと、自分の好みはグラマーな大人の女なのにと、いぶかしみながら、仁は自分の感覚を否定した。