「津那魅さんが仁さんの事を、『犬』扱いしていたのは何故ですか?」


舞を自宅に送る道すがら、とぎれがちな会話を繋ぐため、彼女がした質問は他意の無いものだった。

だが、犬と言われてがっくりと肩を落とした仁は、駅へと足を運びながら、津那魅が舞に植え付けた『犬』と言う言葉を訂正する。


「あ、の、ね〜、舞ちん。俺は『犬』じゃなくて『オオカミ』なの」

「オオカミ……男?」


想像力もたくましく、映画で見た半分人間、半分獣の毛むくじゃらを想像する。

たくましい想像力を屈指して、 満月を見て吠える姿を妄想する舞を見て、まずいと考えた仁はハッキリと彼女の妄想を否定した。


「俺は半獣人じゃ無いから。れっきとした『日本オオカミ』絶滅したけどね〜。これでも最後の1匹なんよ」

「そうなんですか!? ……独りだなんて何だか淋しいですね……」


驚きの声を上げた後、表情を曇らせて悲しげに話す舞に、逆に仁が気を使ってしまう。


「そうでもないんだな、これが。同族や連れ合いがいない連中は、意外と多いんだ。津那魅、奴も最後の一人なんだぜ」

「津那魅さんが?」


仁の言葉に、『わからない』と首を傾げる。


「玲子さんは親戚の方ではなかったのですか?」

「あぁ、確かに親戚だなぁ。でも玲子ちゃん家は分家だからな。つーちゃんは、本家の生き残りだからね」

「本家に分家? どうやら由緒正しい御家柄のようなのですね」

「まぁ、あそこはいろいろある家だからな。詳しく知りたかったら、津那魅本人に聞くと良い。教えてくれるかは解らんけどな〜」

軽くごまかす様な口調で、仁は舞をあしらって、駅の切符売り場へ足を踏み入れる。

舞に最寄り駅を聞いて仁は2人分の切符を買った。

改札に入り、来た電車に乗り込む。

日曜日の午前中は、行楽へ向かう親子連れで賑わっていた。

何故、電車なのか?

不思議に思った舞は、揺れ動く車内で仁に問うた。

返ってきた答えは、『人が多いから』の一言。


「真っ昼間の満員電車、さすがの奴さんでも、大立ち回りは無理でしょ。舞ちゃん、奴は何を犠牲にしようが、気になんかしないよ。君を手に入れる事しか考えてないから。誰が死のうが関係無いって訳」