「3度目だな。うん」


えっへんと胸を張る。

悪びれない仁に、津那魅は小首を傾げ問い掛けた。


「財布は、掏(す)られたのですか?」

「うんにゃ」


仁が、間髪入れずに否定する。

その言葉に、津那魅は有る事柄に行き着いた。


「もしかして……また、ですか?」

「あはははは……」


力無い仁の笑いに、津那魅は今度こそ確信した。


「仁……君は全く学習能力と言う物が無いのですね……」


ふぅっと息を付く津那魅が、次に言った言葉は。


「また、連れ込んだ女に、金品を盗まれた訳ですね……」


冷ややかな津那魅の視線。

聡い津那魅の事、黙っていてもすぐにばれる。

仁は素直に頷いた。


「御免よ。つーちゃん」

「私に謝られても……ねぇ……」


津那魅は玲子に視線を移して、「どうします? 玲子ちゃん」
と、伺い立てる。

さすがに3度目だと、津那魅の独断では決められない。

玲子の意見も重要だった。


「いくらいるのよ」


玲子の冷たい視線をよそに、仁は目の前で両の手の平を広げて見せた。

その様子に彼女は目を剥いた。

「じゅっ……じゅうまん〜!!」


驚くのも致し方ない。

10万円と言えば大金である。

さすがの津那魅も驚いた。

だが、気を取り直して津那魅が言った言葉は、


「自業自得と言えばそれまでですが……馴染みのよしみです……」


何か言おうとした玲子を制して、


「しばらく、私の下で働いて頂きましょう。それが条件です。ただし、君に渡す金品は報酬として払いましょう。良いですね二人とも」


そう言い切った。

津那魅の言葉は、扇家では絶大だった。

扇家家長の次に、力を持つ津那魅。

彼は家長不在の扇家で、事実上トップに立つ。

そんな津那魅の、心の奥を知る人物はもういない。

痛みを知る者も。

唯一の人は、彼が生きる事を望んで、儚く逝ってしまった。

縛られた命は、解放される事無く繋がれる。

今、と言う時間に。




そんな彼の言葉は絶大。

その証拠に、意を唱える者など誰もいなかった。