『此処は……どこ?』


キョロキョロと辺りを見回すが、そこは木々が立ち並ぶ森の様な場所。

此処がどこだか皆目見当がつかない。

目線は日頃見ている景色より随分低く、何もかもが大きくて、何とも心もとない。

頭の上から大きく影が射して、思わず振り返った。


「どうしたの? もしかして迷子になっちゃったのかな?」


背の高い、低めの声。

逆光のために顔は見えないが、光に反射する髪が印象的だった。


「多分、あのパーティの参加者の誰かの子だろう? 連れ帰ってやれば?」


女の子……私……の隣で声がして振り返ると大きな男の人がいた。

怖い。

恐い。

いっぱい怖い。

私は火が付くように泣いた。


「おい! 泣かすなよ、仁」

「俺は何もしちゃいねぇ」

「お前は、いるだけでむさ苦しいよ……ねぇお嬢ちゃん。ごめんね、怖かったよね」


私に最初に声をかけた男の人が、あやすように私に言葉をかけている。


あぁ……。

もう何度も見た光景。

これは、夢。

私の初恋。

おませさんよね。

だってこの時私は、五歳の幼児だったんですもの。

でも、好きになった。

今でも好き。

けど、名前も顔も覚えていない。

私の初恋。

お兄ちゃん。








少女が薄く目を開いた。

初めは頭がぼーっとして霞がかかったようだったが、次第に意識がはっきりとしてきた。


『此処は……私の部屋じゃ無い』


黒と白を基調とした部屋。

シンブルな家具と配置。

目立つのは、ダブルサイズのこのベッド。

慌ててシーツをめくると、寝間着姿でどこも変わった様子が無い。

彼女はその事にそっと胸を撫で下ろすと、昨夜自室で眠りに着いてから、今朝此処で目覚める迄の事を思い出そうと試みた。

だが頭に霞がかかったようで、上手く働かない。


「とにかく誰か探さなきゃ」


胸に『不安』の二文字が過ぎる。

記憶が、全く無いのだから不安に苛まれても致し方あるまい。