「出来る限り毒を抜いて、後は焼くしか無いか」


津那魅は独り呟くと、少女の首をのけ反らせ、白い肌に無残に残る二つの傷に己の紅い唇を這わせ吸い付いた。

口の中が血の味に染まる。

立ち上る香りは、甘く芳醇な香りがするのに、血の味に何ら変わりは無い。

余り良いものでは無かった。

毒混じりの血を口の中に吸い込み、地面に吐き出す。

その行為を都合五回繰り返し、津那魅は血に染まる唇を乱暴に自らの袖口で拭い去った。


「後は焼くしか無いが……」


少女の顔を覗き込んで様子を見た津那魅の顔を、彼女はぼんやりと見返す。

少し意思が戻ったようで、彼女の小さな唇がわななく。


『私は……』


唇は、そう動いていた。


「君をさらった吸血鬼の毒が、まだ身体に残っています。これからそれを取り除くのですが、かなり苦しい思いをする事になります。我慢して下さい」


ニコリと笑って、さらりと言ってのける津那魅に、少女は何を言っているのかと、朦朧とする意識で考える。

そんな彼女をよそに、津那魅は少女を抱えると、ベンチに座り組んだ脚に少女をもたれさせる様に抱え直し、


「辛ければ、しがみついて良いですからね。耐えて下さい」


そう言うと、彼女の首の傷を指先で押さえ付けた。

それだけの動作だったのに、時を置かずして、少女の唇から断末魔の様な悲鳴が上がった。


身体が内側から燃える。

焼かれる苦痛から悲鳴が漏れ、少女は痛みから逃れたいがために、津那魅にしがみ付き、肩に噛み付く。

背に爪を食い込ませ掻きむしり肩に食らい付く力と痛みに、津那魅は少し顔をしかめたが、ぎゅっと少女を抱き返してやった。

どの位たったか、少女の腕の力が抜け噛むのを止めた頃、津那魅は少女を離し組んだ脚を解いて、膝の上に頭を降ろしてやった。

気を失い、脂汗で顔に張り付いた髪を、指先でそっとどけてやると、津那魅は少女の頭を撫でてやりながら、柔らかい微笑みを口元に刻む。


「良く頑張ったな」


少女に向けて労う。

腕を動かすと、肩に鈍い痛みが走る。

津那魅は少女が付けた痛みに苦笑いをすると、月を見上げ呟いた。