異風人

裕子は、そろそろコズエが止めたことを切り出さねばと思ったが、先生をたてれば、コズエがたたない。かと言って、折角糸を張り、威厳を保っている先生の口からは、コズエという単語が出そうにもない。ここは一つ、お二人さんから切り出してもらわねばと、裕子は考えた。然しながら、その微妙なタイミングが難しい。タイミングを外せば、糸が切れて元どうりに先生の威厳が失せ、先生自身ニートになりかねないからである。そうなれば、コズエの話しを先送りしなければならない。もう少し、先生の論理を誉めるような、会話を続けなければならない。
「昔からそのようだけど、テレビのニュースで中東の民族紛争とか、宗教紛争が多いわね。地震や水害は天災だから仕方ないとして、紛争は人災だよね加藤君?」
「ママの言うとおりです」
「それはテレビで遠く離れて見ているので、客観的に見ることができる節もあるな。その渦中に入れば、見ることができないのが常だよ。政治家であれ、マネーゲームに興じる者であれ、人はだいたいそのようだよ。自分も含めて。そこえいくと、先生のような学者、特に哲学者は、その渦中にいながら、物事を客観的に見ることができる。この点が、我々民とは違うところだ」