異風人

時間も早く、客も疎らであった。このような状況の中で、裕子は、咄嗟に判断した。吉平は、何時もの席にやっとの思いで辿り着いたのであるが、裕子は、
「今日は、こちらの席へどうぞ」と、別の席へと吉平を案内したのである。その席は、普段から気心の知れた常連客の定席であった。腑抜けになった吉平は、手術を終えたばかりの患者のように、言われるがままにステッキに寄りかかり、ふらふらと立ち上がって、これまた、やっとの思いで移動したのである。この時の吉平からは、威厳が失せ、何故か素直であった。威厳が失せた燕尾服姿は、無造作にごみ箱に捨てられた、使い古しの人形のようにも見える。