吉平の理路整然とした論理に、多少の乱れが生じた。民の世界に少しばかり触れた吉平は、燕尾服の襟を正して考え込んだ。この件については、深手を負う前に、民の世界をよく知っている小夜の意見を求める必要がある。幸いにして、テーブルは、常連客で塞がる時間になっていた。考え込んでいる吉平を見て、コズエは、気を利かして、「仕事が忙しくなってきたので」と、席を立ったのである。
道すがら、吉平は考えた。押し潰されるとは何か?波紋の論理からは、現れない現象である。吉平は、公園で出合った老夫婦のことを思い浮かべていた。あの時の荒波とは、もしかして押し潰されるということか、と吉平は、結論付けたのである。山高帽子とステッキを小夜に渡しながら、吉平は神妙な顔で、
「小夜、応接間に来なさい」と言った。何時もの吉平とはどことなく違う。小夜には、大体のことは解っていた。多分荒波に接したのであろうと、小夜は、察したのである。
「小夜、今日コズエと肩書きについて話しをしたのだが、肩書きについて小夜はどう思う」
「肩書きは必要だと思います」
「ところがだ、コズエの話だと、部長や課長に肩書きがあっても、押し潰されると言うんだが、私の論理からすれば、波及して広がる筈だ。この矛盾を小夜はどう思う」
「小夜の想像ですけど、多分激しい競争があるのではと思います」
「競争とは?」
「人を押しのけて、上に立とうとする欲望の現れだと思います」
「どう言うことだ!」
「波と波とがぶっつかり合うことだと思います」
「私の論理からすれば、そのような現象は起きない。波紋の源は、一つである」
小夜は、優しく笑みを浮かべながら、吉平を見ていた。吉平の病は、現代の医学ではどうすることもできないほどに根深い。
道すがら、吉平は考えた。押し潰されるとは何か?波紋の論理からは、現れない現象である。吉平は、公園で出合った老夫婦のことを思い浮かべていた。あの時の荒波とは、もしかして押し潰されるということか、と吉平は、結論付けたのである。山高帽子とステッキを小夜に渡しながら、吉平は神妙な顔で、
「小夜、応接間に来なさい」と言った。何時もの吉平とはどことなく違う。小夜には、大体のことは解っていた。多分荒波に接したのであろうと、小夜は、察したのである。
「小夜、今日コズエと肩書きについて話しをしたのだが、肩書きについて小夜はどう思う」
「肩書きは必要だと思います」
「ところがだ、コズエの話だと、部長や課長に肩書きがあっても、押し潰されると言うんだが、私の論理からすれば、波及して広がる筈だ。この矛盾を小夜はどう思う」
「小夜の想像ですけど、多分激しい競争があるのではと思います」
「競争とは?」
「人を押しのけて、上に立とうとする欲望の現れだと思います」
「どう言うことだ!」
「波と波とがぶっつかり合うことだと思います」
「私の論理からすれば、そのような現象は起きない。波紋の源は、一つである」
小夜は、優しく笑みを浮かべながら、吉平を見ていた。吉平の病は、現代の医学ではどうすることもできないほどに根深い。


