そうか、と吉平は、頷いた。小夜は、三十年の年月を要した。小夜並にするには、どうすればよいか?それには先ず、コズエの分析から取り掛からねばならないと、吉平は、考えたのである。コズエは、自分の手の届くところに居ることには間違いがない。自分に対する応対の仕方に、それが現れている。何時も、奥まった席に案内してくれるのは、私を丁重に扱ってくれている証である。同席しないのは、恐れ多くもという心の作用からくる、私に対する尊敬の念の現れである。そうしたコズエの対応は、即ち、地位の高い者への尊敬の念と、年配者を敬うという心の現れである。故に、コズエは、基本的なものを備えている。ここまで分析した吉平は、「コズエには、まだ小波がある。コズエに波紋を起こさせるには、先ず、この小波を消さねばならぬ」と結論付けた。そして吉平は、考え込んだのである。コズエを小夜並にするためには、どうすればよいか?それには、更に深い有意義な接触が必要条件である。小夜との間のように、大学教授と侍女という格差を、コズエとの間で維持しなければならない。吉平は、このように論理を組み立てたのである。
奥まった席に案内された吉平は、一種の優越感を模様し、胸を反らせたのである。山高帽子とステッキをコズエに渡すその仕種には、格差の意識が現れていた。何度か通った所為もあって、吉平の噂が広がり、ここのところ、店の客は増えつつあった。こうした事情もあって、この店で、コズエは、吉平の扱いを任されるようになっていた。吉平が店に入ると、「ほら来たわよ」と、店の者は、コズエに目配せする。コズエが進んで応対してくれることに、吉平は、自分と接触したいのではないのかと思い込んだ。吉平は、論理の筋立てに近づきつつあることに満足していたのである。
奥まった席に案内された吉平は、一種の優越感を模様し、胸を反らせたのである。山高帽子とステッキをコズエに渡すその仕種には、格差の意識が現れていた。何度か通った所為もあって、吉平の噂が広がり、ここのところ、店の客は増えつつあった。こうした事情もあって、この店で、コズエは、吉平の扱いを任されるようになっていた。吉平が店に入ると、「ほら来たわよ」と、店の者は、コズエに目配せする。コズエが進んで応対してくれることに、吉平は、自分と接触したいのではないのかと思い込んだ。吉平は、論理の筋立てに近づきつつあることに満足していたのである。


