異風人

吉平が店に入ると、「いらっしゃいませ」と、言ってくれるようになった。そして、席に着く前に、帽子とステッキを預かってくれる。
「何時ものでよろしいでしょうか?」
「それでよろしい」
「お客様のお仕事は?」と、店の者全員が興味を持っていたことを代表して、店員が尋ねる。
「大学教授」と、吉平は、短く応える。
「道理で、その姿お似合いですわね」と、店員の受け答えは、小夜に似たところがあった。吉平は、気をよくして、
「名はなんと言う?」
「コズエです。どうぞ宜しく」
「歳はいくつになる」
「ご想像に任せます」
「二十五か?」
「そんなところです」
「ここへ座りたまえ」と、言われて、コズエは、これ以上拘ってはと思い、
「仕事が忙しいので」と、その場を逃れたのである。
 今日の収穫に吉平は、大いに満足していた。コズエは、電車の中で、「くそ親父」と言われたあの女性と、年恰好は似ている。吉平は、しめたと思った。波紋の論理を達成するのは、案外近いと思ったのである。
「小夜!」
「何んでございます」
「波紋の論理は、案外近いところにある」
「それはよろしゅうございます」
「実はのお小夜、車中で会ったあの女性に近い女性に出合った」
「どんなお方ですか?」
「私に、帽子を脱げと命令した女性だ。名前と、年齢を確認した」
「随分接触しましたわね」
「ところが同席しない。どうすればよい、小夜」
「焦らないほうがよいと思います」