異風人

「かまわぬ」と、吉平は、きっぱりと応えた。この店には、常連客が多い。異様な光は、他の客に影響を与え、かつ、波紋として広がる憂いがある。「帽子をお預かりしましょう」と言う店員の言葉の中には、そのことがちらりと見える。吉平は、畳の上に胡座をかいて座った。ステッキは、袖口から覗いている第二関節辺りで、右肩に抱え込んでいた。薄暗い照明効果もあって、ぽつんと浮かぶ第二関節は、宮中を思わせるしとやかな雅さえ感じさせる。この日も、吉平には、民との接触がなかったのである。
「小夜!」
「今日はどうでした?」
「居酒屋に行った」
「それは、大変な進歩です」
「ところが、誰も私と接触しようとしない。どう思う小夜!」
「きっとご主人様には、威厳がありすぎるのではと思います」
「そうか、道理で私に向かって帽子を脱げと命令をした」