異風人

(3)
 吉平は深く考え込みながら、今日も同じ駅で下車したのである。威厳を放てば、いくらかでもこの出で立ちと釣合う。考え込み、うつむき加減で、ゆっくりと歩いたのでは、この釣り合いが崩れる。崩れれば、威厳が不気味さに変わる。考え込んだ分だけ、吉平の歩行は減速され、かつ、不気味さに深みを添えたのである。相変わらず、民の流れは速い。複雑な光を放ちながら吉平は、さまよえる木屑のように身を任せ、あちらにぶっつかり、こちらにぶっつかりして、その流れに乗る。流れの中で、吉平の目は、庇の奥から常に獲物を狙っていた。木屑から発するその眼差しは、鋭く、かつ、更なる不気味さを添える。民の流れは、下流に行くにつれて、枝分かれする。それに従い、民は次第に分類されていく。たまたま自然の流れに乗った吉平は、何時の間にか飲み屋街へと紛れ込んでいたのである。その流れの大半は、勤め帰りの民であった。要領を得ない吉平は、ただ民の後にくっ付いて、掃除機に吸引される埃のように、ある店内に吸い込まれていった。先に入った二人の民は、何時もの席につく。吉平もその後に続こうとした。そして、
「お一人ですか?」と、吉平は、呼び止められたのである。
「そうだ」
「では、こちらへどうぞ」と、案内される。その席は、照明を一段と落とした座敷の一番奥まったところにあった。
「帽子とステッキをお預かりしましょうか?」と、店員が吉平を促す。吉平としては、威厳を保つために、帽子を脱ぐわけにはいかないのである。