小夜は、それに従った。吉平の頭の中は、波紋の論理で一杯であった。先ず、この論理を打ち立てるためには、鏡のような水面が必要である。吉平の脳みそは、他の雑物を受け入れる隙間もなく、この水面で満杯になっていたのである。この水面を得るには、先ず、民との深い接触が必要である。この時、吉平の波紋の論理は、明快に整理されたのである。床に着いた吉平は、燕尾服によって更なる威厳に満ちた自分の姿を想像した。民は皆、自分の存在を意識するに違いない。小夜は、この事情を伊沙子に話してあったので、家庭内でのいざこざは発生しなかったのである。隣の奥さんには、小夜の説明は不要であった。
ズボンは、胸の辺りでベルトを締めても、胸周りに皺が寄り、足首から膝にかけて、提灯のようにその長さを調整していた。燕尾服は、ずれ落ちた肩幅の寸法が手伝って、中指の第二関節が辛うじて袖口から覗いている。山高帽子の色は、褪せており、所々に、虫の食った孔が開いていた。帽子も少しばかり大き目で、吉平の目は、逆光を浴びた写真のように庇の奥に隠れていた。威厳を保つには、小柄よりも大柄に見えるほうがよい。これで、威厳を保つには、十分な出で立ちが整った。吉平は、大いに満足したのである。
ズボンは、胸の辺りでベルトを締めても、胸周りに皺が寄り、足首から膝にかけて、提灯のようにその長さを調整していた。燕尾服は、ずれ落ちた肩幅の寸法が手伝って、中指の第二関節が辛うじて袖口から覗いている。山高帽子の色は、褪せており、所々に、虫の食った孔が開いていた。帽子も少しばかり大き目で、吉平の目は、逆光を浴びた写真のように庇の奥に隠れていた。威厳を保つには、小柄よりも大柄に見えるほうがよい。これで、威厳を保つには、十分な出で立ちが整った。吉平は、大いに満足したのである。


