(2)
小夜は、開放された実感を味わい、吉平は、先が明るく見えたという実感を確信した。乗り降りが多い車中の民とは、接触時間があまりにも短か過ぎる。吉平は、考えた。そして、決断した。よし!今日は途中下車をしよう。吉平は、多くの民と出会うように、乗り降りが多い駅を選んだのである。
改札口をくぐった吉平の足取りは、わざとらしくゆったりとしていた。威厳を保つためである。当然のことながら、吉平は、石ころのように民の流れの障害物となる。民は皆、目的を持って流れている。吉平には、鏡のような水面と言う大きな目標はあるが、歩行先の目的はない。従って、吉平のこのゆったりとした足取りは、威厳を保つと言うよりも、むしろ行く先の定まらない、さ迷える足取りであった。忙しなく流れる民の流れは、時には吉平に突き当たり、その反動で弾き飛ばされ、或はまた、吉平の回りを避けた整流のように流れて行く。従って、吉平を弾き飛ばし、追い越し、すれ違う民との相対的な速さは、渦巻しぶきを立てて流れる浅瀬のような急流となる。接触時間は、むしろ車中の民よりも短く、笑みを送る暇さえなく、吉平の存在すら見当らない。吉平は、民の中では無に近い一粒の埃に過ぎないのである。この日は、埃のまま帰宅したのである。そして、小夜を捕らえた。
小夜は、開放された実感を味わい、吉平は、先が明るく見えたという実感を確信した。乗り降りが多い車中の民とは、接触時間があまりにも短か過ぎる。吉平は、考えた。そして、決断した。よし!今日は途中下車をしよう。吉平は、多くの民と出会うように、乗り降りが多い駅を選んだのである。
改札口をくぐった吉平の足取りは、わざとらしくゆったりとしていた。威厳を保つためである。当然のことながら、吉平は、石ころのように民の流れの障害物となる。民は皆、目的を持って流れている。吉平には、鏡のような水面と言う大きな目標はあるが、歩行先の目的はない。従って、吉平のこのゆったりとした足取りは、威厳を保つと言うよりも、むしろ行く先の定まらない、さ迷える足取りであった。忙しなく流れる民の流れは、時には吉平に突き当たり、その反動で弾き飛ばされ、或はまた、吉平の回りを避けた整流のように流れて行く。従って、吉平を弾き飛ばし、追い越し、すれ違う民との相対的な速さは、渦巻しぶきを立てて流れる浅瀬のような急流となる。接触時間は、むしろ車中の民よりも短く、笑みを送る暇さえなく、吉平の存在すら見当らない。吉平は、民の中では無に近い一粒の埃に過ぎないのである。この日は、埃のまま帰宅したのである。そして、小夜を捕らえた。


