異風人

(7)
 小夜の話振りからすれば、自分よりも主の方が上に聞える。吉平としては、小夜にも見離され、主に門前払いを食った感じであった。極めて微弱ではあるが、小夜と主との狭間で吉平は、何だか自分だけが取り残されて、宙に浮いているのを覚えたのである。寄り道をする術を奪われ、大学から真っ直ぐに帰った吉平は、いくらかの威厳を残して弱々しく、山高帽子とステッキ、それに燕尾服を小夜に渡した。何時ものように、応接間に小夜を呼んで、今の自分のこの気持ちを、打ち明けたい気分である。小夜は、そうした吉平を労わるように眺めたのである。
主のことはともかくとして、何故か吉平は、小夜の言うことだけは素直に受け止めざるを得ないのである。書斎には、吉平以外に誰も居ない。小夜もいない。あの主もいない。広い邸であるので、外部の雑音もない。あの極致の空間とまでは行かないが、吉平の書斎には、あの絵がかけられている。