異風人

「小夜には、子供が居ったな」
「はいご主人様」と言いながら、小夜もソファに腰を下ろした。
「小夜も、子を持つ母親の経験があるということだ。子に対する母親の愛を聞かせてはくれぬか」吉平のこの言葉に、小夜は、密かに微笑んだのである。
「女には、子供を生めない男性には解ってもらえないものがあります。夫婦は、互いに愛し合って結ばれます。この愛は、ご主人様もお解りでしょう」
「それと、子を思う母親の愛と何処が違うというのだ」
「世間では、自分のお腹を痛めた子は、可愛いといいます。小夜の場合はこうでした。愛する夫の分身が、自分のお腹の中に宿ったという感激がありました。この感激は、夫にもあったようです」
「それでは、男女同じではないか」
「いいえご主人様、それは違います。小夜の場合、自分のお腹を毎日毎日さすりました。多分他の母親もそのようにしたと思います。今改めて思い起こすと、自分のお腹の中に生命が宿っているという、実感があったからです。男性には、この実感を味わうことはできないと思います」