異風人

吉平は、今日の講義も、我ながらにして格調高いものであったと胸を反らせたのである。睡眠不足は、学生諸君に幸せをもたらした。学生にとって、講義が早めに切り上げていただいたことは、この上ない幸いなことである。講義を早めに切り上げたのは、小夜のことも理由の一つにあった。
「小夜、居るか!」と、吉平は玄関のドアを開ける。
「今日はお疲れのようですね」
「いいからそこへ座りなさい。今日は波紋について学生諸君に講義をしてきた」「波紋って?」と、小夜は、言いかけて、
「隣の奥さんのお話しですね」
「夕べあれから考えたんだが、教育の原点は波紋にある」
「田中さんとどういう関係があるのですか?」