「もし、ご老人、どうなさいました?」と、その声は優しく、かつ、どことなく品があった。
吉平は、うつろな眼差しでゆっくりと、声をかけた主の足元から辿って顔を見上げた。素足に履いた革靴は、永年風雨に曝されてごわごわと干からびており、所々摺り切れて白くなっている。ズボンの裾は、摺り切れて輪郭を留めず、外套だかスーツだか区別のつかない衣服は、所々に引き裂き傷があり、垢で黒く光っていた。靴、ズボン、衣服には、それらの原色を留めないほどに絵の具の混色が付着していた。数十本の髪の毛は、垢と埃で接着して棒のように突っ立っており、頭皮から雑木林のように生えている。口は、無精ひげに隠れていた。臭いは、腐った生ごみに顔を突っ込んだような臭いである。この身なりには、俗世間の欲望を全て捨て去った、いわば清潔さがあり、低い声で物静かに語る品のある語調からは、仙人を思わせる静寂ささえ感じさせる。その容姿には、吉平の山高帽子をかき消すほどに、静寂に満ちた威厳さえ感じさせるものがあった。
吉平は、うつろな眼差しでゆっくりと、声をかけた主の足元から辿って顔を見上げた。素足に履いた革靴は、永年風雨に曝されてごわごわと干からびており、所々摺り切れて白くなっている。ズボンの裾は、摺り切れて輪郭を留めず、外套だかスーツだか区別のつかない衣服は、所々に引き裂き傷があり、垢で黒く光っていた。靴、ズボン、衣服には、それらの原色を留めないほどに絵の具の混色が付着していた。数十本の髪の毛は、垢と埃で接着して棒のように突っ立っており、頭皮から雑木林のように生えている。口は、無精ひげに隠れていた。臭いは、腐った生ごみに顔を突っ込んだような臭いである。この身なりには、俗世間の欲望を全て捨て去った、いわば清潔さがあり、低い声で物静かに語る品のある語調からは、仙人を思わせる静寂ささえ感じさせる。その容姿には、吉平の山高帽子をかき消すほどに、静寂に満ちた威厳さえ感じさせるものがあった。


