レヴィオル国勇者の城、王の間。


そこでは主が不在だった時と同じく、ピリピリした空気が流れていた。

イルの鼻を啜る音だけが、妙に静かな広間に響く。



「ミュリエルか…」


ぽつりと呟いたアレンは、悔しそうに窓から東の空を見上げた。


イルの話によると、赤ちゃんたちのオムツを買いに城を出たところでレイとミュリエルを見つけたらしい。

声をかけようとしたところ、いきなり大天使であるミュリエルが羽根を広げレイは精霊を呼んだ。

何をするんだと不思議に思い走り寄れば、二人に冷たい目で見下ろされ。


そこで何となくわかってしまったイルは、必死に引き止めた。

そんなこと誰も望んでない、と訴えるも、その制止は意味を成さず。


行ってしまった二人と、取り残されたイル。




「あたしっ…、レイのあんな怖い目はじめて見たぁ…」


ギルクに宥められながら、イルはしゃくりあげて言った。

余程親友のそれがショックだったらしい。



「…マケドニス」

「はい」


黙りを決めていた主人に呼ばれ、マケドニスは彼の傍についた。

空を見上げたままのアレンは、一旦目を伏せると呟く。




「ルネを呼んでこい」