「…何が、馬鹿?」
強い意志を持った瞳をこれまた鋭い目で見つめ、笑みを消したアレンは少女にゆっくり訊ねた。
不意打ちの抵抗に備え、身体中の神経を尖らせる。
ズキン、と痛んだ深手の傷は、集中しきったアレンには何の意味も持たないものだった。
「……馬鹿。馬鹿だよ」
「だから何が…」
頭ごなしに馬鹿、と言う少女に少しイラッとしたところで。
「もっと早く言ってくれればよかったのに」
グロアは目を伏せ、小さく囁いた。
その言葉を聞いたアレンは思わず微かに目を見張る。
「は…?どういう…」
「…なーんてねっ!隙アリっ!!」
何か憂いを含んだ微笑を浮かべたグロアの俯いた顔を覗き込んだ瞬間、彼女はニヤリと笑ってアレンの腹を蹴飛ばした。
――…怪我をしていない、右の方を。
15歳かそこらの少女の蹴りなど痛くも痒くもなかったが、不意に部屋の外に誰かの気配を感じそのままベッドに倒れるフリをする。
怪我に少し響き痛かったが、それは表に出さずアレンは立ち上がったグロアを横目で盗み見した。
そしてその直後、部屋の扉が誰かによって開けられる。


