朝日の美しさも、小鳥のさえずりも
感じる事はなく、

気がつけば あの日の彼女と同じ
虚ろな瞳で遠いどこかを見るようになった。


信じていた男に借金を負わされ逃げられ、いっぱいいっぱいだったんだと―

後でりえさんが悔しそうに呟いていた。


私は
あの日から
お店に出る事もなく、
ただ豪徳寺の豪邸で
干からびたピクルスみたいに
枯れ果てていた。

唇はかさかさと音をたてていたし
頬はボロボロにすり減らしていた。


「…ただでさえトロイのにそんな姿になっちまって…お店はどうするんだ」

気がつけば隣で声が聞こえた。

「…りさ…さ…」

「りさでなくて悪かったね…私だよ…りえだよ」

いつもの二倍増しに散らばった部屋に
りえさんはスーパーの袋から何かを広げている。

見たところ
缶詰めやヌードルや、そんな類だった。