『焦らなくて良いんじゃない?』
そう言われたものの、ここ数日、私の心はザワザワして落ち着かない。
そもそも、何をどうして私は氷室君に恋したなんて思ってしまったのか?
配られた部活案内のプリントを見つめつつも、何でか考えるのは氷室君の事。
…勝手に脳内が彼を思い浮かべてしまうのだ。それも無意識のうちに…

(もう一度声聞きたいな…)
あの柔らかい、透き通ったアルトの声…
氷室君は必要最低限、口を開かない。
そして最近気付いた事がある。
普段の氷室君の声は低くて掠れているのだ。
私が聞いた氷室君の声とは全く質が違う。

入学式の時は…
(もっと…高かった、よう、な…)
……ああどうして…
「~~~うぬぁああっ」
頭を抱えて唸った声は、滑稽なもので。
けれど鼻歌交じりにプリントを見つめていた朋代をビビらせるには充分だった。
「どっ…どした?」
言葉と裏腹な引きつった声に顔を上げて、よしと意気込むと私はジロリと朋代を見やる。
「………朋代」
「…はい?」
ガシリと腕を掴むと朋代が訳の判らない悲鳴を上げた。
「か、かかっ…風歩さん??」
「部活見に行こ」
「………はぁ?」

そうだ、いつまでもこんなんじゃダメだ。未知の感情に良いように流されてたらっ!大体今日だって、氷室君と朋代の話と恋の云々が頭をグルグル回って授業も全っ然頭に入らなかったじゃないか!(ノートも殆ど真っ白だし)気付けば放課後だし!!
(何かで気を紛らわせなきゃ)

「ちょ、何処行くの!」
「…とりあえず片っ端からっ」
「~~~あんたねぇ!!!」

ドタドタと教室を出て行く私達。
………そこまでは良かったのだ。

…そう、そこまでは……