教室の窓側から2列目の席―――…
そこが、氷室心(ひむろしん)の席である。
氷室君とは、あの柔らかな声の持ち主であり……その声とは裏腹に何処か冷たい印象を持つ人。

だが人間とは不思議なもので、終始無言であっても横柄な態度を取ろうとも、顔が良ければ『クール』だの『シャイ』だの…まして、そこで溜め息を吐こうものなら『物憂げな表情』だの…
…何なんだ。顔が良ければ何してもオールオッケーなのか?
氷室君はクラスの誰とも自分から話そうとしない。むしろ関わりたくないオーラ全開だ。
男子は何処か取っ付き難そうな顔してるけど、女子はどうだろう…
皆して熱い視線を送っているではないか。
入学してからまだ間もないと言うのに女子の心をしっかり掴んだ氷室君に拍手。

世の中、やっぱり顔で決まるわけね。…平々凡々な顔に生まれた事を恨むよ私は。

そんな捻くれた事を思いつつも、私の視線も自然と彼の方へ向かう。
…窓の外見てる…
…あ、今欠伸した…
…机、指でトントン弾くの、癖なのかな?
チラチラと氷室君の動向を伺っていたら、前の席のイスが引かれた。
「何?風歩も氷室君ウォッチ?」
そう言ってニヤニヤと笑うのは、高校生になって早速できた友達の西村朋代である。
「氷室君ウォッチって…」
何てナンセンスな…そう呟くと、だってと彼女は辺りの女子を、それに加え、廊下からも覗く他クラスの子達を片っ端から視線で示した。
「毎日毎日皆良く飽きないよね。氷室君、上野動物園のパンダ状態じゃん」
「ちょっ…朋代、聞こえるってば」

ケラケラ笑う彼女の口を慌てて抑える。
朋代はひとしきり笑った後、鞄から鏡を取り出してメイクを直し始めた。長い睫毛にマスカラを丁寧に塗る彼女は、爪の先端までお洒落を怠らない。
見た目チャラチャラした印象をうける彼女であるが、実は頭も良く面倒見の良い姉御肌だ。
メイクも上手だし周囲への気配りも忘れない。
私とは正反対の女の子…
そんな朋代が自分と友達だなんて、何だか不思議だ。