彼女が寄りかかっていた柱の反対側に音もなく俺を置いて、山田さんは初めて大きく息をついた。

タイムは35秒。俺が全力疾走で5分近く走った距離を、俺を抱えて。

「では失礼します、ご用命の際はお気軽にどうぞー」

山田さんはそう言い残して人ゴミに消えた。いや、紛れたと言ったほうがいいかもしれねえな、あんまり変わんないけど。

なんせ休日ながら駅にちらほらとみえるサラリーマンはその瞬間からどれもが山田さんに見えたくらいだから。

それくらい、彼は普通だったんだって。




「いつもよりマシだけど、遅い!」

2分遅れで待ち合わせ場所に着いた俺をやっぱり彼女のゲンコツが襲った。

いつもより18分くらい早いせいか痛みも1割くらいのもんだったね。

そう思いながら、俺はポケットの中の名刺を触って、つい20分前の話をすべきかどうか迷ってたわけ。

いいかな、こんなところで、うん、じゃあ。