あいつの犬〈短編〉




 


もう嫌だ。


晴に林檎ジュース溢して携帯壊して、困らせて迷惑かけて、挙げ句の果て八つ当たりまでして。




「 …どうする?………帰る? 」



あたしがここまでしても、心配そうな顔であたしの心配をして。




「 もうほっといてよ……! 」

「 ほっとけるわけないだろ? 」



どこへも行かない晴を見て、あたしが立ち上がり早歩きでその場を去ろうとする。
フラつく足取りが、自分でも危ないと思うし、変だと思う。




「 いい加減にしろ 」



あたしの肩を掴んだ晴の声が低くて思わずビクッとする。
………………怒ってるんだ。




「 お前倒れたらどーすんだよ?強がってんじゃねえよ馬鹿。
  それに何でそんな機嫌悪いの? 」



フッと頭に上っていた熱が冷めた。
「ごめんなさい」と小さく呟くしかできなかった。