あいつの犬〈短編〉




 


「 具合悪いのか? 」

「 ………ちょっとフラフラしただけ 」

「 顔色悪いけど 」



前みたいに、あたしに触れる事は無い。
そりゃそうだよね、あんな事しちゃってんだし。ちょっとでも期待したあたし、うぬぼれすぎ。




「 ちょっと待ってろ 」



晴はあたしに背中を向け、どこかへ行こうとした。
それが、あの日あたしに向けた背中のようで、もう戻ってこない気がして、




「 ……待ってっ 」



引き止めてしまった。


後先考えない行動が自分の足を引っ張るんだと、なぜ学習しないんだろ。




「 どうした? 」

「 え、あ……えっと…… 」




どうしよう。




「 未弥? 」

「 な、なんでも無い 」



首を横に振り、晴に早く行くように促した。