「藤木先生」
あたしの好きな人の名を七瀬先生が呼んだ。
七瀬先生の目はあたしの後ろに向けられている。
どくん、とあたしの心臓が大きく鳴った。
「七瀬先生。校庭でうちの生徒が怪我してしまったので見に行ってやってくれませんか」
藤木武(フジキタケル)。
あたしとクロの担任の先生。
数学を受け持つ藤木先生は黒板に数式を書く時の指がとてもきれい。
先生の甘くて低い声が海の香りがあたしの恋心を掻き立てる。
あたしは後ろを見ることができなかった。
先生があたしのすぐそばにいると思うと緊張であたしが壊れてしまいそうだったから。


