「…誰?」
返ってきた七瀬先生の声は今にも消え入りそうだ。
「そこで大人しくしていれば何もしませんから。だからそれ以上騒がないで下さい」
「あなた、誰?ここどこなの?この手錠はなに?」
「その質問に答えることはできないです」
「どうして?」
「とにかく静かにしていて下さい。それ以上騒がなければ何もしませんから」
しばらくの間が流れた。
やがて返ってきた声は耳を貫くほど甲高いものだった。
「こんな事態も飲み込めない状況で大人しく静かにできると思う?あなた誰なのよっ!ここから出しなさいっ!」
ドアの向こうで金属の当たる音が鋭く響く。
手錠を無理矢理引っ張っているんだろう。
七瀬先生は叫んでばかりで話を聞こうともしなかった。
これ以上何を言っても火に油だ。
そう察したあたしはクロの腕を引っ張った。
けれどその腕はするりとあたしの手を通り抜け、次の瞬間、あたしは信じられないものを目にした。
「静かにしろってんだろ!!」
ドンッと大きな音と共にクロの罵声があたしの鼓膜を突き破った。


