学校から帰るとクロの部屋から声がした。
あたしとクロは顔を見合わせて恐る恐る二階に上がる。
「誰かっ」
叫びに似たその声には驚きや恐怖が滲み出ていた。
ドアの向こうで七瀬先生は両親や藤木先生の名前を何度も呼んでは叫ぶ。
聞いていて痛々しいほどに。
どうしよう。
あたしは今とんでもないことをしているんだ。
今更ながら実感というものがこみ上げてきた。
手の汗が尋常じゃないぐらい溢れ出てくる。
クロの額にも汗が一筋流れていた。
もう遅い。
七瀬先生は起きてしまった。
もう言い逃れはできない。
でも心のどこかで言い逃れができないか考えているあたしがいる。
「七瀬先生を驚かすつもりでやった」
今ならその理由で通るかもしれない。
あたしはクロの腕を掴んだ。
少し震えていた。
クロと目が合った。
その瞳は朝見せた迷いのある瞳だった。


