「藤木先生のことは涼子に頼んだから」
クロが静かにいった。
「藤木先生も男だ。若い女に言い寄られりゃ七瀬先生のことなんか忘れる」
「そんな単純なものなのかな」
「そうだよ。男が単純な生き物だってこと涼子だってよく分かってるだろ」
あたしは今まで付き合ってきた男を思い出して小さく頷いた。
でも。
あたしは呟いた。
「でも藤木先生は今までの男とは違う。だから好きになったんだよ」
それは藤木先生が大人だからなのか教師だからなのか分からない。
ただ七瀬先生を見つめる瞳が優しくてあたしはあんな風に大事にされたいと思っていた。
いつも藤木先生の隣にいる七瀬先生を羨ましいと思っていた。
そしてこれからあたしは七瀬先生がいたあの場所を奪い取ろうとしているんだと思ったら緊張がみなぎった。
自信がない。
あたしにそんな勇気があるのだろうか。
果たしてそれを勇気だと言えるのだろうか。
クロがあたしをなだめるように頭をポンポンと優しく叩く。
その温もりはあたしに安心を与えた。
「俺もきっと今涼子と同じ気持ち」
うん、とあたしは頷く。
「罪悪感は捨てよう。悩んだって仕方ない。前に進むしかないよ」


