海の香り。

クロの背中越しに見えたあの瞳と目が合った。

捕らえて離さないブラウンの瞳は宝石のようにきらきらと輝いている。


「篠田、黒井。授業始めるから教室戻りなさい」


先生がいった。


「はーい」


とあたしは答える。

先生は少し微笑んで教室の中に入った。

そこで海の香りは途切れた。


「戻ろう、クロ」


あたしはクロの腕を引っ張る。

小さい時は華奢だったのに今ではその腕はたくましくなっていた。


「涼子」

「なあに」


あたしは振り返る。

クロの鋭い視線があたしを貫く。


「やっぱり大人の男がいいんだね」

「何のこと」

「間違えた。やっぱり先生がいいんだね」

「…クロこそ」


あたしはいった。


「クロだって大人の女が好きなんでしょう」


クロの肩が少し揺れる。

少ししてクロは白い歯を零した。


「お互い叶わぬ恋だな」


その笑顔は悲しく寂しく今にも消え入りそうだ。

きっとあたしも同じ。

クロと同じ顔をしてる。

まるで鏡みたい。

クロが泣いていたらあたしも泣いている。

クロが笑っていたらあたしも笑っている。

あたしとクロは鏡。

あたしとクロは同じ仲間。