「ホームルーム始めるぞ」
藤木先生はいつもと変わりなかった。
一人一人生徒の名前も呼ぶ声も、きれいな指で黒板に字を書く後ろ姿も、全くなんの感情も見られない。
ふいにくしゃくしゃに丸めた紙が視界を遮った。
クロからだ。
――今のところ誰も気付いていないみたいだな。
あたしはすぐに返事を書いた。
――でもいつかは気付かれるよ。いつまでも無断欠勤じゃ怪しまれる。
そうだ。
皆に気付かれる前になんとかしないと。
じわじわと焦燥感があたしを支配する。
犯罪者が証拠隠滅する時はこんな気持ちなんだと思った。
また丸めた紙が飛んできた。
――それなら安心しろよ。ちゃんと手は打ってあるから。
え、とあたしは後ろを見る。
クロは白い歯を見せて親指を立てた。


