「涼子」


あたしは振り返った。

呼んだのは男じゃなくて、彼だったから。


「おはよう、クロ」


彼、クロ。

黒井光彦(クロイテルヒコ)。

クロというあだ名は名字の黒井からとったのもあるけれど、肌が真っ黒に焼けているのもある。

彼は休日になると近くの海でサーファーに変身する。

変身した彼は幼なじみのあたしでさえ、胸がキュンとときめく程にかっこいい。

日に焼けた肌に眩しく光る白い歯が彼のチャーミングポイントだ。


「おはよう、涼子」

「おはよう、クロ」

「どうしたの」

「何が?」

「顔が暗い」

「クロほどじゃないよ」

「俺はただの日焼け」


くすくすとあたしは笑う。

それで?とクロがいった。


「それでって?」

「その暗い顔は何かあったって証拠だから。何があった?」

「クロは何でもお見通しだね」

「何年一緒にいると思ってんの。俺は涼子のホクロの数まで知り尽くしてる」

「ちなみにいくつ?」

「12」

「当たり。じゃあこの暗い顔の原因は分かる?」


クロは少し考えて、教室の中を覗いた。

その視線の先には男がいた。


「彼氏?」

「惜しい。正確には元彼氏」

「別れたの?」

「さっきね」

「どうして?」

「クロなら聞かなくても分かるでしょ」