怪訝に眉を寄せて、まるで不思議なものを見るように男はあたしをじっと見つめていた。

あたしは笑っていたけど、心の中ではゆっくりと真っ黒い何かがが広がっていった。

どす黒くて、感情のないもの。

それが何かは分からないけど、分かるのはあたしがこの男に興味をなくしたことだけ。

ううん、正確にはもともと興味なんか持っていなかったのかもしれない。

あたしは席を立った。

教室の中は騒がしいはずなのに、この時だけはなぜか静かに感じた。

男があたしを見上げる。


「ばいばい」


ばいばい。

たった数ヶ月の間だったけど、あんたとの恋愛ごっこはまんざらでもなかった。

でもしょせんは恋愛ごっこ。

お遊びの時間はもうおしまい。


「涼子」


男があたしの名前を呼ぶ。

あたしは振り返らない。