「先生、忘れ物」
きらきら。
藤木先生の額が汗できらきらと輝いている。
あたしは先生が忘れていった指輪を返した。
「忘れちゃだめだよ。愛の証」
藤木先生は苦笑いを見せて指輪を左指に通す。
「どこにあった?」
「あそこの洗面所」
「そうか。手洗ったときに忘れて置いてきちゃったんだな」
罰が悪そうな顔をして藤木先生は花壇への水やりを再開した。
あたしはその横でホースから流れる水しぶきをじっと見つめた。
きらきら。
きらきら。
小さな虹が見える。
きらきら。
きらきら。
先生の薬指に光る指輪は七瀬先生と一緒に輝いている。
「今日、七瀬先生お休みだね。どうしたの?」
「俺に聞くなよ」
「だって付き合ってるんでしょ」
「さあな」
「ふうん」
「そういや、黒田も休みだったけど風邪大丈夫か?」
「なんであたしに聞くの?」
「だって付き合ってるんだろ?」
「さあね」
藤木先生は笑った。
あたしもつられて笑った。


