「藤木先生って保健医の七瀬先生と付き合ってるらしいよ」


どこからか流れてきた噂はあくまで噂で信憑性にかけるものだった。

だからあたしは信じなかった。

信じたくなかった。

クロの顔を見るまで。

一年の時は別のクラスだったクロと唯一会える場所はクロの自宅。

働きづめの母親と母子家庭のクロは夜ずっと一人だった。

だから隣に住むあたしは夜食を持っていつものようにクロの家に上がり込んだ。

クロの部屋は畳八畳の狭いところ。

その中央でクロは布団にくるまって寝ていた。


「クロ。お腹すいたでしょ。ご飯持ってきたよ」

「うん」

「今日は暑かったからちらし寿司。早く起きて食べよ」

「うん」

「クロ?」


あたしはそこでクロの様子が可笑しいと気付いた。

クロはずっと布団の中で顔を見せようとしない。

どうしたの、とあたしは布団の中を覗く。

黒目がちの瞳と目があった。