「篠田」 ふいに、あの香りが鼻先を過った。 あたしが大好きだった海の香り。 まさかと思った。 でもその声は間違えるはずがなかった。 振り返ると扉の向こうで彼が立っていた。 どうして。 どうして。 「篠田…」 藤木先生は今にも泣き出しそうで、とても悲しい目をしていた。 「ごめん…」 どうして。 なんで。 どうして、あなたが謝るの。 「ごめん」 やめて。やめて。 「ごめんな」