「…あ」


私は顔を上げた。

それからまさか、と自分の中で否定しながらもそれを肯定するかのように唇が震えていた。

毎日のように顔を合わせていた、彼。

まさか。

いや、でも。


「そんな…」



血の気が引いていく感覚が全身を襲った。

恐らく…

いやあの声は間違いなく、




彼だ。








その時だった。




突然、扉が大きく開いた。

暗闇だった視界が明るくなるのと同時に見慣れた顔が目に入り、思わず見開いた。

一瞬、笑みが零れる。

彼女は私を助けに来てくれたのだと思ったのだ。

しかしそのささやかな喜びはすぐに打ち砕かれた。


「…篠田さん」


篠田涼子ーー彼女の手には握りしめられた包丁が鋭く光っていた。