ーーごめん。
「な、んで…」
ーー俺、やっぱり七瀬先生のことが諦められないんだ。
「だってここでやめたら、あの人は。七瀬先生は結婚しちゃうかもしれないんだよ。いいの?」
「うん、もうそれは仕方のないことなんだよ」
「なんでそんなふうに割り切れるの」
声が震えた。
「お前だって最初はそう言ってたろ。仕方のないことなんだよ。
全てが自分の思うとおりにはならないんだ」
やだ。
嫌だ、いやだ。
食器棚の引き出しを開けようとするクロをあたしは縋るように引き止めた。
「まだ諦めちゃだめだよっ。まだ望みはあるから。だからっーー」
「いい加減、涼子も目ぇ覚ませよ!」
「あっ」
クロがあたしの手を振り払ったと同時に床下で金属の当たる音が響く。
それを拾い上げたクロはあたしを静かに見下ろしていった。
「涼子も今回のことで思い知ったろ。もうどうにもならないんだって」


